ルーラー。

俺は苛立っていたんだ。 
書く気にもならないあれやこれや。 些細といえば些細。 積もらせて。 消し切れずに。
だから前にいる若人の苛立ちが見えた。 ストレートな苛立ち。 蓋をされて羽ばたけない苛立ち。 めらめらと燃えるような。
だったら俺が解き放ってやろうと思った。 今思えば。 それは彼の苛立ちだったのか。 俺の苛立ちだったのか。

右の三番に大きな入力をして、じわりと胆に力を込めた。 ケイデンスが適正に回復してきた頃にはセッションしてきたのは二人だけだった。
目に見えるストレートな苛立ちを見せていた若人と。 打てば響くその先輩と。 
しかし途中下車する彼らのターニングポイントはすぐそこ。 俺は一人、発射される形になった。 ままよ。

後ろを振り向く気にはならなかった。 ただひたすら鞭を入れ続けた。 残りはやや20km。 群れに戻る? 冗談じゃない!
後ろの面子でこの逃げをつぶせるのはおそらく一人だけだろう。 その殺気が近づいているのか、いないのか。
平地をすぎて角を曲がると知らない上り。 足はすでにいつ終わってもおかしくない状態。 慎重に、慎重に、ギリギリを回し続ける。
終わらない。 まだ終わらない。 これで終わりか。 いやまだか。 実にいやらしい上り。
大腿四等筋の痙攣の兆しを探りながらの綱渡り。 苛立ち? そんな邪魔物はとっくのとうにダム湖に捨ててきた。
来るのか、否か? 近づいているのか、否か? 怯えという感情。 ソロでは湧き上がらない感情。

ようやっと上りが終わった。 が。 油断は禁物。 平地までの間にいかに乳酸を抜くか。 アドバンテージを潰さないか。
いやそもそもアドバンテージがあるのか? 己を信じ。 身体を低く。 ラインをスムーズに。 全てをささげ。 ただひたすらに。 速く。 速く。

下りきったところで神の僥倖。 大きな雨粒。 みるみる黒く光る路面。 走りながらツールポーチからウインドブレーカーを出し。 
何とか左袖は通るが。 背中に貼り付いて万事休す。 左のクリートを外し。 ねじれを直し右袖を通してファスナーを上げる。
後ろを見ると負けるような気がして。 すぐさま走り出す。 役にたっているのか、いないのか。 まあどうでもいいさ。

何でこんなシャカリキに飛ばしてるんだ。 こんな雨なのに。 嬉しくなってくる。 回る回る回る。 
275に入り。 車と。 路面と。 信号と。 冷静に処理する自分と。
とにかく。 ひたすら。 できるだけ。 速く速く前へ前へと純度を高める自分と。
不思議に両立したまま。
静かに偕楽公園へと滑り込む。
建物の軒先へと雨を逃れ。 二人で壁にもたれ。 目をやると。 なんとも満足気な彼女。



ああ、そうか。 お前はこういう風に走りたかったのか。 それはそうだよな。 その為に生まれてきたんだもんな、お前。
[PR]
by denzia | 2015-10-13 00:59


  愛しい妻達(自転車)と     果てしなき愛を交わす、    怒涛の自転車ヘンタイBlog          (↑ここ重要)


by denzia

カテゴリ

全体
プロフィール
ペダリングのゴタク
銀輪採集記

タグ

(33)
(30)
(26)
(22)
(19)
(9)
(8)
(7)
(6)
(4)
(3)
(1)
(1)

以前の記事

2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
more...

最新の記事

クロージング。。。。。
at 2016-11-22 16:38
最終回。
at 2016-11-22 16:03
真夜中は純潔。
at 2016-11-15 11:30
すごくうまいおはなし。
at 2016-11-01 23:56
観楓会。
at 2016-10-23 22:46

お気に入り

検索

記事ランキング

ブログジャンル

自転車・バイク

その他のジャンル